· 

野中郁次郎氏が逝去されました

 経営学者で一橋大学名誉教授の野中郁次郎氏が1月25日に89歳でなくなりました。野中先生を有名にしたのは何と言っても【失敗の本質】でしょう。複数の学者との共同研究の成果を書籍にした共作ですが、野中先生が防衛大学の教授時代に発刊された名著です。太平洋戦争で何故日本軍が無謀な戦いに挑んで敗退したのか、組織構造や意思決定システム等の分野において、敗退には明確な根拠があると喝破しました。私も読みました。納得のいく内容であり、企業経営にも応用できる考察が随所に出てきます。

 さらにナレッジマネジメントの概念を提唱し広めたことにも多大な貢献をされています。会社には様々が知恵がふんだんに蓄積されています。しかし大半は個々の社員のノウハウやスキルであり、会社全体では共有されていません。宝の持ち腐れの状態です。会社は人の集まりですから、個々の社員が持っているノウハウ・スキルを有形無形に交錯させておかないと、会社の総合力は予想外に低い水準のままです。個々の社員が持つノウハウやスキルを他の社員や社内に伝播させていく仕組みが重要なのです。

 個々の社員が持つノウハウやスキルは暗黙知です。暗黙知は明文化や視認化されていないものが大半です。暗黙知の対極にあるのは形式知です。形式知は明文化されているので、社内での共有を促進させることが可能です。概ね社内のノウハウやスキルの総体を100とすると形式知は10、暗黙知は90という具合です。よって個々の社員が持つ暗黙知を形式知に変換させていく仕組みが必要となります。

 このような工程の重要性を教えてくれたのがナレッジマネジメントなのです。最近はこの言葉が忘れられたような気がします。ナレッジマネジメントは次のフローで深化・進化していきます。①暗黙知を形式知に、②形式知を社内全体に共有(深化)させ、③新たな暗黙知の醸成を促し、④そして新たに生まれた暗黙知を形式知へ転換していく。こんな具合で社内にあるノウハウやスキルを正の循環でバージョンアップさせていくのです。

 米国発の経営理論が多い中で、野中先生は日本の学術界でも斬新な経営理論を産み出し発展できることを証明してくれました。私も大いに学ばさせていただきました。ありがとうございました。