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退職所得控除のルールは変更なしに

 随分昔のことになってしまいましたが、かつては「経済は一流、政治は三流」と言われていた時代がありました。その経済も急速に勢いをなくし、今や二流となりそして三流へ落ちていきそうです。一方の政治はどうか。言いたくもありませんが、三流から四流へと更に駆け落ちていると感じです。四流という言い方があるのは分かりませんが、三流と揶揄されていた時期より更に悪くなっているような感じがします。

 政府与党のみが悪いのではありません。野党の政治家も全く長期的展望がない人気どり政策に熱心です。今の国会で野党議員がある質問をしました。それを岸田首相が答弁していました。ある一企業の不祥事に関することです。その不祥事はワイドショー的には面白い話題でしょうが、日本国の現状を憂い、明るい未来を創る発想での質問ではありません。私は思わず野次を飛ばしてしまいました。良識のある学者?は「こんな事案は国会で取り上げるものではない」ときつく戒めていました。まさにその通りです。

 今日の日本経済新聞に退職所得控除に係る記事が載っていました。退職所得は支給された退職金から20年間までの勤務年数に対して40万円/年、20年超の勤務年数に対しては70万円/年の控除が認められています。例えば、勤続30年の社員が退職すると退職金の所得控除は1500万円(40万円/年×20年+70万円/年×10年)となります。課税される退職所得は退職金から退職所得控除控除した額の1/2です。よって本件での退職金が2000万円だったとすると、退職所得は250万円((2000万円-1500万円)×1/2)となります。1500万円以下の退職金であれば課税されずにまるまる自分の財布を潤します。

 この退職所得控除が余りにも高い(!)として、これを見直す方向で検討が政府内でなされていました。検討例として20年超の勤続年数にも年当り控除額を40万円とする案がありました。また年数に関わらず一律50万円とする案も。私はどのような案が出てくるのか関心を持っていました。それが現状通りとなったというのです。「大山鳴動すれども鼠一匹」どころではありません。

 そもそもこの退職所得控除制度を変更させようとしたのは、在職年数が長いほど退職所得控除額が多くなるので、他社への転職や年齢が若い段階での開業・創業にとって障壁となっているという思い込みがあったのです。退職所得控除額が少なくなれば、早期の転職等が活発となり、労働市場が活性化されることで人財の有効活用が図られるという論理展開でした。経済活性化へのトリガーの1つになると考えたのでしょう。

 労働市場の活性化は絶対に必要ですし、良い意味での転職者や創業・開業を目論む未来の経営者が増えることは大賛成です。転職や創業・開業する人財が少ないのは、日本経済の先行き不安や寄ろば大樹の陰的に安心・安全を重視する若者たちの意識にあるのです。家庭や学校、地域社会等々あらゆる場面で、物事に積極的に取り組むことの有用性等を教えていくことが重要なのです。働くことの意味や職業感、職業倫理・道徳の教育を積極的に進めなければなりません。

 働き方に関する意識の変革が重要なのです。高度成長期の働き方は多くの問題を抱えているものの、「今日よりは明日は生活が必ず良くなる」という希望を全国民が持っていたように思います。一国民だけではなく、日本社会全体が上昇志向を持って働き生活していました。強い上昇志向の復活と強化、その音頭取りを政府や大手企業の経営者やリーダーに切に求めたいと思うのです。