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物価上昇と賃金引上げの相関関係

 日本経済新聞7月18日付朝刊に、物価と賃金に係る面白い考察が掲載されていました。見出しは【ビジュアルでわかる-変わり始めた物価と賃金】とあります。物価は2%の上昇率を政府や日銀が政策的な目標として設定しています。ここ1~2年の物価上昇率は3%台で推移していますが、為替相場での円安を前提としたコストプッシュ型の物価上昇率だとして、日銀は金融緩和政策の姿勢を変えていません。

 この記事では物価上昇率を3つの段階で分解し説明しています。第一段階はコロナ発生による国際的な物流機能の切迫化による物価上昇。この物価上昇は企業物価(購買者物価)で顕著でした。一時的に10%近くまで物価が上昇しました。次の段階はロシアのウクライナ侵攻による鉱物資源高や食糧難を起因とする物価高です。これも現時点では落ち着きを見せ始めています。

 最後のそして直近の物価上昇率は、第一段階と第二段階による実質賃金目減りを補う為に、今春の賃金上昇率が3.5%台となったという事実に基づくものです。賃金の上昇は購買力を高めます。消費性向を強くします。需給バランスが微妙に崩れます。これらから消費者物価の上昇を誘発したという見解です。

 賃金の高い上昇率があったとしても、ここ数年は実質賃金が低下してきたのですから、給与所得者の懐具合が大きく改善されたというわけではありません。もとに戻ったというのが正しい見方でしょう。しかしコロナ渦で労働市場が大きく変質しました。今年になってもサービス業を中心に人手不足は解消されていません。量的だけではなく質的な側面での労働力の不足も顕著です。

 以上から優秀な人財の確保の為に必然的に賃金引上げ圧力が高まっています。労働力不足を補うとして期待された高齢者や主婦等女性の労働参加率もこれ以上は高めることができなくつつあります。労働力の供給が先細りする中、人財の募集採用に係る圧力は企業に強いプレッシャーを掛けます。よって賃金上昇圧力は来春以降も高くなると推察することができます。場合によって企業の賃金支払い能力の限界を超えて賃金UPを断行するという意思決定を出さざるを得ないかもしれません。

 マクロ的には高い賃金上昇率を維持し続けなければ、安定した物価上昇へのトリガーとはなりません。物価上昇を止むを得ないという理解を全国民が共通認識として持たないといけません。物価上昇が続けば、年金でしか収入の糧がない人達によっては、少しずつ生活が苦しくなるからです。それでもなお、2%を基調とした物価上昇が賃金の引上げを誘発し、やがては国民経済の安定成長につながると私は確信しています。

 経営者の皆さん!、ミクロ的には自社の成長の為に、マクロ的には日本経済や日本社会の安定化の為に、従業員の賃金引上げをこれからも行って下さい。よろしくお願いいたします。