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イオン、パート時給7%UPも数々の障害があり

 今年の賃金引上げ率はどの程度になるのでしょうか。「業績が厳しいので賃上げは難しい」という経営者もおられるかもしれません。しかし賃金引上げをしないと優秀な人財の獲得ができないどころか、人員不足となる可能性が高まります。「賃金引上げ原資がない」と考えるのではなく、「生産性や収益性を高めて賃金引上げ原資をねん出する」という考え方を持った方が良いのではないでしょうか。人員不足は既存社員への労働負荷を高めることにもなりかねず、社員の退職圧力が増す可能性もあります。

 2月2日付の日本経済新聞の一面に【イオン、パート時給7%上げ】【物価上昇超え 国内最多40万人】の見出し記事がありました。国内流通最大手のイオンがパート時給を7%引き上げるという方針は、他の小売業者にも少なからず影響を与える可能性があります。しかしここで幾つかのハードルがあるのです。賃金引上げをすることにより、肝心のパートさんが勤務時間を減らす可能性すらあるので。日本の諸制度の矛盾が浮かび上がってきます。

 その矛盾、障害とは年収の106万円、130万円、150万円という壁です。まずは106万円の壁。昨年10月から社会保険被保険者数が101人以上の企業では、週の労働時間が20時間以上になると社会保険の加入が義務化されました。年金財源の拡充と主婦層を中心に年金額を増やすことで安心した老後を過ごせるようにという政策意思の表れです。しかし社会保険料の徴収率は平均して賃金の15%程度になるため、一時的には手取りが減ってしまいます。「週20時間も働きたくない」とするパートさんも多いと聞きます。

 第2の壁は130万円です。前述した101人以上という基準は2年後の2024年10月には51人以上に引き下げられることになっています。それでも50人以下の企業でパートとして働く人には社会保険の適用はありません。しかしここで130万円の壁があらたに出現するのです。社会保険制度は被保険者の扶養者であれば新たな費用負担もなく、基礎年金(第3号被保険者)や健康保険が適用されます。しかし年収が130万円をこすと、基礎年金は第1号被保険者として、また健康保険は国民健康保険の被保険者として保険料を納めなければなりません。基礎年金第1号被保険者の保険料は月額で16590円です。この保険料負担を避けるために、時給は高くても年収を130万円未満に留めようと勤務時間をコントロールするのです。

 最後は150万円の壁。給与所得者が確定申告する際に配偶者控除を受けることができます。しかし配偶者の給与収入が150万円をこえると段階的に配偶者控除が減額され、最終的には控除を受けられなくなります。配偶者の給与収入が増えることにより、主たる生計者の所得税額が増額されていくのです。世帯全体では現金の実入り額が少なくなる可能性が高いのです。この150万円の壁、最後にパート勤務者の前に表れるのです。

 社会保険は厚労省、配偶者控除は財務省の管轄です。省益ではなく国益全体で考えれば、もっと良い知恵が出てきそうな気がします。日本は少子高齢化により15歳以上65歳未満の生産年齢人口の総数が長期的に下落しています。このままでは生産・役務提供活動が停滞していきます。AI等による省人化がなされても人的資本は経済活動ではとても重要です。

 政府は女性の社会進出、介護離職の防止、子育て世代への支援、結婚や出産への応援等々を国策として掲げています。しかし全てがチグハグです。政策面での連携が脆弱です。女性等の当事者の意識が希薄です。勿論男性もです。この投稿を書きつつ、情けない気持ちで一杯です。このままだと日本の未来はどうなるのでしょうか。