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黒田日銀総裁の「円高に大きくふれたことは結構なこと」の発言に思う

 対ドルの円相場が大きく乱高下しています。3週間前に150円台となった後、ここ暫くは145円前後の攻防が続いていました。ところが、一日に8円近くも高騰!し、一時的には138円台をつけるという前代未聞の様相を呈しています。黒田日銀総裁は大きく円高に振れている状況を受けて、「大変結構なこと」と発言したようです。私はこの発言を聞いてあきれてしまいました。金融政策の最高責任者として無責任な発言だとしか思えなかったからです。

 年初からの急速に進んだ円安のために、食料品が高騰してきました。この一年間で数回も値上げした食料品もあります。食料品メーカーが悲鳴を上げています。「食品が値上げしても家計は対応できる」と発言して「庶民感覚からずれている」と批判されました。黒田総裁は発言内容の釈明に追われました。企業購買者物価指数が二桁に近い伸びで伸長し、それが全産業での仕入原価のアップを招いています。ロシアのウクライナ侵攻による資源価格の高騰で、農家は肥料価格が上昇しまた必要量が手に入らず、農業生産にも少なからず負の影響を受けてきました。

 上場企業の中間期決算は全体として増収増益となっているようですが、円安効果による増収増益であり、企業力向上によって得られたものではありません。増益となった企業は来春の賃上げ交渉時にどの程度の引上げを回答するのでしようか。しっかりと現預金をため込みながらも、「円安による増益だから還元できない」と回答すれば、賃金引上げ闘争が大荒れとなることは必然です。

 政府は財政政策で、日本銀行は金融政策で国内経済の安定と浮揚をはかる義務があります。権利ではなく義務だと思います。「仕手筋、投資筋による為替相場を許さない」との発言が政府等からなされています。今回の円相場の乱高下はこれらの「為替相場を動かすことで短期的な利益を確保する」という投機筋の思惑が働いているに違いありません。また米国での仮想通貨大手の破綻で、現金化したいという人達が円を買ったということも円が高くなった理由の一つに挙げられています。

 経済は基本的に現実・実態に合わせて動くことが原則でしょう。日本の国際競争力、産業力、企業力、革新力等々総熱量が低下していく中では円安は止むを得ません。しかし経済のファンダメンタルズに相関しない為替相場に対しては、日本銀行と政府は積極的に関与していくべきだと思っています。そのような意味で、前述の黒田日銀総裁の「大きく円高に振れたことは結構なこと」発言は納得のいかない発言だと私は感じたのです。