今日(7/20)の大分合同新聞に大分県農協の記事が掲載されていました。「また不祥事発覚か?」と記事に目をやると不祥事発覚ではなく、本来開催すべき通常総代会の開催が遅れているという記事です。農協の組織形態や運営等について知見はありませんが、通常総会が開催されないというのは異常事態であることは分ります。
農協ではなく株式会社を対象に総会が如何に重要であるかを検討してみましょう。株式会社には国の憲法にあたる定款があります。定款は絶対に記載すべき事項のほか、決定した時は記載すべき相対的事項、記載しなくても良い任意的事項などから構成されています。絶対的記載事項は「目的」「商号」「本店の所在地」「出資財産の価額」「発起人の氏名等」です。株式会社は登記所にて設立の商業登記をしなればなりません。また登記した事項に変更があった時は変更登記も必要です。
商業登記法は経済活動の安定性の為に、会社設立や登記事項に変更あった時は所定期間内に登記を義務付けしています。登記が遅滞等したときは裁判所から懈怠税の納付を要求されます。登記事項に変更があったのに変更登記をしていないと、取引の相手側は登記事項を信じて取引を行うことによる予想外の損害発生のリスクを負うことになります。登記義務は安心して経済活動を行う為のインフラとなっているのです。
株式会社の登記事項には、「商号」「本店所在地」「目的」「資本金」「取締役の氏名」「代表取締役の氏名・住所」等があります。これらの事項は株式会社の機関である株主総会の決議によって決定されます。代表取締役1人の独断専行で決することはできません。総株主の一定数以上の出席のもとに総会が開催され、一定数の賛成を得て法令及び定款に瑕疵のない決議がなされるわけです。
株主総会は決算等を承認する定時株主総会と臨時に開催される株主総会とに大別されます。臨時総会は臨時の名のとおり、開催されないときもありますが、定時株主総会は一年に一回必ず開催されないといけません。開催しないと定款又は法令に明らかに違反することになります。一般的に株主総会は決算期から2か月又は3か月以内に開催されます。2か月は税務上の観点から、3か月は会社法上の観点からです。いずれにしても3か月以内には絶対に定時株主総会は開催されます。
長々と株式会社の組織運営等について記述してきましたが、ここで大分県農協の通常総代会の遅延問題へ戻ります。通常総代会は株式会社の定時株主総会と同じものと思われます。大分県農協も法人格を得て商業登記をしているはずですから、大分県農協の定款や商業登記に違反していることは確実です。大分県農協の決算期は行政の会計年度と同一の3月31日だと思います。とすれば3か月内の期限は6月30日です。6月30日までに通常総代会を開催し、決算の承認や事業報告を終えていなければならなかったはずです。それが何故できなかったか。ここを考える必要があります。
主要な原因は不祥事が相次いだことで、過去の決算を含め会計処理上で修正等の作業の必要性が生じたことがあったのでしょう。しかしこれは会計処理及び会計監査の問題であり、不祥事発覚後に直ちに処理を開始すれば、総代会遅延は免れることが出来たと思います。問題は業務上、組織運営上の課題が解決されていないことにあると思われます。これは業務監査の対象です。
東京の農業を専門とする監査法人が大分県農協の監査に従事していると報道にありました。この監査法人は会計監査の他に、業務監査を行っているはずです。不祥事発覚後に「同じような事態が二度と発生しないように業務改善がどの程度進んでいるか」をチェックしているはずです。またマニュアル等の文書規定が適切か否かを慎重に判断していることでしょう。総代会遅延の報道からすると、大分県農協は業務上・組織運営上の問題や課題がまだ解決されていない、ということを露見させています。
大分県の農協は農業従事者の高齢化等により、徐々に集約化されています。統合されて図体は大きくなったものの、組織運営に大きな課題が山積し、その解決が先送りされてきた結果が今回の通常総代会の開催遅延となっているのでしょう。大分県農業の一翼を担う大分県農協,自浄作業が働くかに注目です。