最近の日本経済新聞等で最低賃金に係る記事や学者の投稿が目につくようになりました。最低賃金は地域別最低賃金と特定産業・業種に適用される最低賃金の2本立てです。毎年10月に改訂され施行されます。8月頃に開催される中央最低賃金審議会で各都道府県別の最低賃金の目安が発表されます。これを受けて、各地方最低賃金審議会が各都道府県の最低賃金を決定するという流れになっています。
大分県の現行(昨年決定された)最低賃金は時給792円です。新型コロナウイルス感染症の影響を受けて前年から僅か2円のUPでしかありません。コロナ禍が続いている今年の最低賃金は「現状維持」「少しのUP」「大幅なUP」の3つの選択肢がありそうです。これから関係する政労使の3者が口角泡を飛ばして自分の意見を主張し始めることでしょう。
経営がとても厳しい状況下に置かれている企業の経営者は、「最低賃金を上げるところか、下げて欲しい」と思っている人も多いかもしれません。最低賃金のUPは、直接又は間接の別を問わず、給与水準の上昇に繋がる可能性が高いからです。しかし、ここは大局的な見地から、最低賃金を上げるか否かを判断しなければなりません。難しい方程式を解かなくてはなりません。
経営コンサルタントを営んでいる私としては複雑な気持ちです。これは成長意欲が高い経営者も同じではないでしょうか。その理由は次のとおりです。
先ず第1に、最低賃金UPは給与水準の上昇を引き起こすので、優秀な人財を採用する可能性が高まります。給与水準の高い企業を就職希望者が選択する確率が高くなるからです。第2に、人件費の上昇はコストアップに繋がりますので、経営者はビジネスモデルの改変に取り組まざるを得ません。今話題のリモワーク等の新しい働き方は労働生産性の向上に寄与する可能性が高いと考えられます。第3に、経営情報を全従業員へ公開し会社の現状への理解が深まれば、従業員の意識レベルが向上することも考えられます。
このように、最低賃金上昇が持たらすだろう人件費・給与水準UPは、一概に会社経営にとって負の側面を強調するだけではなく、プラス面の影響もあると考えられます。経営者が最低賃金に関し「現状維持」「少しのUP」「大幅なUP」の3つの選択肢の何れを良しとするか、その意思決定が中長期的な会社経営に大きな影響を与える可能性があります。
ただ一つ言えることは、会社業績に関して最も大きな貢献をするのは従業員、ひとだということ。私はこの人という経営資源の貢献割合は8割あるのではないかと考えています。機械等の物的資産やビジネスモデル等の無形資産の貢献割合は2割に過ぎないのです。よって、従業員のモラールやモチベーションを継続的に上げていくには、成果に見合った処遇、その1つに給与水準があることは確かなのです。
さて、経営者の皆さんは、今年の最低賃金の改定についてどのような関心を持っておられるでしょうか。いや、最低賃金とは無関係で、自社の給与水準の改訂等についてどのような意見を持っておられるでしょうか。今や給与水準に関しては、4月や10月などの特定月だけの関心事ではなく、毎日、通年で考える時代になっているのです。