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悪い知らせほど迅速に報告する

 「善は急げ」という格言があります。「良い事はためらわず直ぐに行え」という意味です。「良い知らせは早く知らせよう」ということにもなるでしょうか。しかしそれ以上に、「悪い事は良い事以上に最大限に早く知らせなければならない」と拡大解釈をし、自身の言動に責任を持つべきだと思うのです。。

 私がある第三者(A社長とします)から聞いた話です。A社長の会社はある仕事の受注がほぼ決まっていました。その相手側(B社とします)との取引は10数年になります。しかしA社長の体調や他の事業との兼合いから、「今回限りで」と仕事を完成させた数か月前に、A社長はB社に仕事の受託の断りを入れました。困ったのはB社です。新たな受注先を探さなければなりません。しかし「もう出来ません」とA社長が受注しないと明言したのは数か月前ですから、B社には新たな取引先を探すのに時間がありました。

 結果として、B社は自社の仕事を受注してくれる企業を見つけることができず、「お願いできないか」とA社長に暗に受注を依頼してきたのです。その仕事を完成させるには相当な日数が必要であることから、一度は断ったA社長ですが、相手の事情を斟酌して「当方の条件を呑んでくれれば契約しても良い」と回答しました。A社長からの提案を受けてB社の担当者は、「分かりました。では見積りを出して下さい」と事前Okの承諾を出しました。

 そこで、A社長は「これまでの仕事は全て自社で行っていたが、一部のみを自社で処理し、大部分は協力会社の力を借りよう」と受注に向けて前準備を始めたのです。B社にその旨を伝えたところ、「役員会に事案として提出して決済をもらうことになった。これまでと契約条件が変ったので、役員から説明して欲しいと指示が出た」と報告を受けました。役員会の開催日はX月Y日です。ところがX月Y日を5日過ぎても、B社からA社長へ何の連絡もありません。そこで業を煮やしたA社長はもそのB社の担当者へ「どうなりましたか」と電話をかけてみました。

 その返事が驚きです。「役員会で否決されました」。「だったら何で早く知らせてくれなかったのか」と怒りのA社長。A社長は直ぐに、事前の前裁きで外注先としてお願いしていた協力会社に「受注できなくなりました」と断りの電話をしました。それも三社です。

 B社担当者の心情は分からないでもありません。「もう仕事をしない」と告知されていた会社に、「今年も是非」と強くお願いして見積書を出してもらった。その見積り内容について自分はOKをしてしまった。役員会で否決されるとは思っていなかった。しかし否決された。渋々受注を引き受けてくれたA社長にどのように話せばよいのか....。

 A社長は、このような流れを私に憤懣やるかたない心持ちの中で語ってくれました。ここから得た教訓! 「良い事よりも悪い事の情報を一分一秒でも迅速に知らせなければならない」。X月Y日の役員会終了後直ちに、「申し訳ない。自分の努力が足りず否決されました」と即行でA社長に知らせればよかったのです。A社長も大人です。一瞬「えっ!」と思うかも知れませんが、「役員会で決裁されること」という条件が付いていた訳ですから、大人の対応に終始したと思います。5日経過した後にA社長から電話をして、申し訳なさそうに弁解する。正に企業人が取る態度ではないとAさんが憤るのも納得です。私も今回の事例を反面教師として参考にしたいと思います。