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10月13日、最高裁小法廷で労働者側敗訴の注目の判決

 10月13日に最高裁小法廷で2つの注目すべき判決が出されました。大阪医科大学事件と東京メトロコマース事件で「非正規社員に対する賞与と退職金の不支給が不合理であるとまでは言えない」という判決です。高裁での判決ではいずれの事件も支給額・要件は異なるものの、「不合理である」として賞与や退職金の支給を命じられていました。よって本件判決は原告(労働者側)の敗訴となってしまいました。「審理が十分に尽くされていない」として高裁へ差し戻しをすることもあるのですが、今回は差し戻しはなく原告側の全面敗訴の様相を示しています。

 全産業での全従業員に対する非正規社員の比率は約4割です。当然ですが業種による差異は大きく、小売業や飲食業などでは過半が非正規労働者だという会社も少なくはありません。よって、「アルバイトやパートまで賞与や退職金を支給しなければならない」とすると、中小企業では人件費が高騰し、一時的には収益力の低下を招きかねません。しかしこの収益力低下は、一時的であるというのが当職の考えです。

 月例賃金を含む労働条件・処遇改善で優秀な人財が会社に集まってきます。「じんざい」が人財や人剤となるのです。その一方で「うちは給料が安いから、賞与もないし退職金も出ない」となれば、「じんざい」は人罪や人済、人災などの負を抱えた問題児だらけとなっとしまいます。会社は「じんざい」を人財や人剤で固めなければならないのです。

 最高裁小法廷は個別の具体的事例で検討する必要があるとしています。これは当然でしょう。正規社員(正社員)の職責・義務・責任や移動・異動への負担等も考慮する必要があります。非正規社員との仕事の質の比較検討も必要です。それ故に、最高裁の判決内容を具体的に検討することなく「一概に非正規社員だから賞与や退職金を支給しなくても問題はなし!」と結論を出してはいけません。

 2年前の改正労働基準法施行等により同一労働同一賃金が強く意識されるようになりました。経済界からは今回の判決を歓迎する声もありますが、労働法等を専門分野とする学者からは時代遅れの判決という意見も表明されています。

 実務上は優秀なじんざいが会社の繁栄を形作るとして、同一労働同一賃金を強く意識した上で待遇格差を長期的観点からなくしていく方向で動くことが大切だと思います。経営者や経営管理者の皆さんには、判決の要旨を理解した上で、処遇改善の歩みを遅らせない様にお願いしたいものです。