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損益分岐点に診る小売・運輸の低収益性

 (令和2年)6月25日付の日本経済新聞に「運輸・小売り、今期1割減収で赤字、危機耐性弱く」との見出しで損益分岐点に関する記事が書かれていました。上場企業の2020年3月期の損益分岐点比率を業種ごとに調べたところ、運輸業、小売業、外食(飲食業)、鉄鋼の耐性が低いことが分かったというのです。売上が1割減少すると赤字に転落するというのです。

 損益分岐点を試算するには、売上高と総費用の把握が必要です。総費用には売上原価の他に、人件費や販売費、一般管理費などの営業経費の他、支払利息等の営業外費用も含まれています。総費用はこの様に幾つかの費用科目から構成されていますが、別の視点では「売上高の増減に対して発生額が増減する費用」と「売上高の増減に無関係で発生額が固定的な費用」の2種類に区分することが可能です。前者を変動費といい、後者を固定費と呼んでいます。総費用=変動費+固定費、という計算式が成立します。

 ある会社の売上高を1000とし、総費用は900だとします。利益は売上高から総費用を控除すると計算できますので、利益額は100(利益=1000-900)と計算できます。これから売上が1割減少したとすると新しい売上は900となりますので、新しい利益は0(利益=900-900)となりそうです。しかし、損益分岐点分析ではこのような単純計算にはなりません。

 総費用に関しては、総費用=変動費+固定費という計算式が成立します。先の例だと総費用は900でした。この900のうち、変動費を300とすると固定費は600です。損益分岐点の計算式は「固定費÷(1-(変動費÷売上高))」です。この式に変動費等の数値を入力をしてみましょう。損益分岐点=600÷(1-(300÷1000))、が最初の入力式です。これを水平展開すると、損益分岐分岐点=600÷(1-0.3)=600÷0.7=857.1428=857(小数点以下は切捨て)という計算結果が得られます。損益分岐点の売上高は900ではなく、857だったのです。

 損益分岐点比率は損益分岐点を実際売上高で除したものです。よって、損益分岐点比率は100未満であることが黒字であることの絶対条件です。損益分岐点比率が100より小さい値で、かつ乖離幅が大きいほど赤字への耐性が強いことになります。前述の仮定での損益分岐点比率は、損益分岐点÷実際売上高=857÷1000=85.7%です。売上高が15%弱落ち込んだとしても、何とか赤字転落を免れるということが分かります。

 本コラムの表題は「損益分岐点に診る小売・運輸の低収益性」でした。売上高が1割減少するというのは、新型コロナウイルスでもなくても、「競争相手が出現した」「類似商品が発売されたので主力商品がダメージを負った」などの事件はよく起こるものです。私はコンサルタントをする際に言っています。「売上が15%くらい減少しても大丈夫な経営体質に転換して下さい」と。その為には、「売上を伸ばす」という対策を前面に出すのではなく、「変動費率を落とすことはできないか」「固定費をゼロベースで見直しをする」という費用の徹底的な見直しが求められます。こうした努力が強靭な経営体質を創り上げていくのです。さあ実践しましょう。費用の徹底的な削減と見直しを!