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労災の認定は誰がするの?

 今朝6時30分に私のスマホの呼び出し音が鳴りました。出勤前の身支度中だったため、折り返し電話を掛け直すと残念な報告が飛び込んできました。顧問先の役員との通話でしたが、ある拠点で死亡事故が発生したとのこと。状況をお聴きしましたところ、この事業所では24時間365日フル活動で生産できる体制を組んでいるのですが、夜中に機械の不具合が発生し生産が止まってしまいました。夜中ですから、自動生産はしているのですが、作業員は誰一人としていません。

 そこで事業所の管理者が機械を修理する外部会社の担当者と共に状況確認に行ったところ、管理者が誤って転落し不慮の死を遂げたのです。警察に連絡をし現場検証をしたところまでは良いのですが、警察官が「これは労災にはなりませんね」と発言したため、事業所は生産の再開をしようと考えたようです。そこで役員からの電話があったのです。

 「労働基準監督署に届け出ましたか」と私。「まだです」と役員。ここで理解して欲しいのは、警察署と労働基準監督署では職場内で発生した死亡事故でも、見方・着眼点が異なるということです。警察署は「事件性があるか」の観点から現場検証をします。一方の労働基準監督署では労働基準法や労働安全衛生法等の労働法制が遵守されているかを焦点に当てて現場検証をしていきます。また労災認定は所轄の労働基準監督署長が行います。警察署長ではありません。

 本事件は夜中でかつ従業員がいない中での死亡事故です。しかし現場が事業所の領域内で発生しているところから、労働基準監督署へ通報し、現場検証の立ち合いが絶対に必要な事案だと私は判断しました。労働基準監督官は「安全が保たれない」「危険が急迫である」という状況下では機械使用停止命令等の行政処分を下す権限を持っています。監督署に通報せず、かつ生産活動を再開したともなれば、後日「労災隠し」を疑われ、長期間に亘る業務停止命令を受ける可能性があるところでした。

 職場内でおきた事故であれば、死亡事故や休業数か月といった重たい事案でなくても、労働基準監督署や警察署、消防署(及び許認可を受けている事業であれば許可行政庁も)に電話で報告を入れておくのが良いでしょう。「そこまでしなくても良いです」と言われる程度の細心な注意を払っておきたいものです。